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JAMAガイドラインに沿って作る統計解析計画書 (Section 4)

アウトライン
  1. 作成日: 2025/12/3
  2. 更新日: –

はじめに

統計解析計画書 (Statistical Analysis Plan; SAP) は、ヒト臨床試験 (ヒト試験) のプロトコルに記載された解析方針を、より技術的かつ詳細に記述した文書です。

本稿は、JAMAにてGamble C, et al (2017) が示したガイドラインに沿ってSAPを作成する方法をまとめます。

SAPの基本的な概要は以下のコラムにまとめているので、興味がある方は、画像をクリックして読んでいただけると幸いです。

SAPのチェックリスト

Section 4のチェックリストは以下の通りです:

表1. 「Section 4: 統計的原理 [Statistical Principals]」のチェックリストGamble C, et al (2017) から引用、改変

Section/Item Index Description
信頼区間とp値 16 統計的有意水準
17 計画されている多重度の調整についての説明、調整する場合には第1種エラーをどのように制御するかを含む
18 報告されるべき信頼区間 (CI)
アドヒアランスとプロトコルの逸脱 19a 介入へのアドヒアランスの定義と曝露の程度を含めた評価の方法
19b 介入へのアドヒアランスがどのように提示されるかについての説明
19c 試験のプロトコル逸脱の定義
19d プロトコルの逸脱がどのように要約されるかの説明 (逸脱が大きいか小さいか、分析集団への影響、プロトコルの逸脱を要約するためのアプローチ (例: グループごとのプロトコルの逸脱の数と種類) などの詳細を含むことができる
解析対象集団 20 解析集団の定義例: ITT (intention-to-treat)、per-protocol、complete case、safety

次の章から、このチェックリストに沿って、どのようにSAPを書いていくか紹介します。

SAPを作成する

信頼区間と有意確率 (p値) [Confidence intervals and p-values]

Item 16: 統計学的有意水準

ヒト臨床試験 (ヒト試験) の統計学的有意水準を明記する。

統計的有意性を判定する際にカットオフ値 (有意水準) を用いる場合、SAPには使用する有意水準を明確に記載することが重要です。

主要評価項目に適用する有意水準は、サンプルサイズ計算に使用した有意水準と一致している必要があります。一方で、副次評価項目については、主要評価項目とは異なる有意水準を設定する場合があり、その場合は設定理由とともに適切に文書化しましょう。

<記載例>

該当する統計検定はすべて両側検定とし、有意水準5%を用いて実施する。

Item 17: 多重性

計画されている多重性調整について、その内容を明確に記載する。多重比較を行う場合には、1型過誤 (Type I error) をどのように管理・制御するのかについても併せて示す必要がある。

多重性調整を行う場合には、どの方法を用いるのかを事前に明確に定義しておく必要があります。採用する調整法の根拠および選択理由は、適切に正当化しなければなりません。また、多重性の調整を予定していない場合には、その旨を明確に記載する必要があります。

副次アウトカムについて多重性調整を行わない場合は、特別な主張を行わない限り、通常は詳細な正当化を要しません。一方、主要アウトカムが複数ある場合 (例: 複数用量の比較など) は、多重性をどのように扱うかについて、明確な正当化を示すことが求められます。

ゲートキーピング法を採用する場合には、検証を行う順序や階層構造を明確に示す必要があります。

<記載例>

本試験では、主要評価項目は1つのみとして設定しており、主要評価項目に関する統計的検定では、多重性の問題は生じない。そのため、主要評価項目に対する多重性調整は行わない。 副次的評価項目については、複数の項目を設定しているが、これらは探索的解析として位置づける。したがって、副次的評価項目に対する統計的検定では多重性調整を行わず、得られたp値は探索的な指標として解釈する。

<記載例>

本試験では主要評価項目を2つ設定しているため、主要解析におけるType I errorを適切に制御する目的で、階層的ゲートキーピング法を用いる。

検定の順序は以下のとおりとする:

  • 主要評価項目Aの群間差を両側有意水準5%で検定する。
  • Aで統計的有意差が認められた場合に限り、主要評価項目Bの検定に進む。
  • Bの検定も両側有意水準 5%で評価する。

Aが有意でない場合には、B の検定結果は探索的な指標として取り扱う。

Item 18: 信頼区間

統計解析において報告する信頼区間 (CI) の種類を明確に記載する。

信頼区間 (CI) は、主要アウトカムおよび副次的アウトカムに対する統計解析結果を解釈するうえで不可欠な情報です。報告に用いる信頼区間の信頼水準は、試験デザイン段階であらかじめ決定し、試験データを確認した後に変更してバイアスが生じることを避ける必要があります。

使用する信頼水準は、全てのアウトカムで統一してもよいが、主要アウトカム・副次的アウトカム・探索的アウトカム・安全性アウトカムなど、アウトカムの性質に応じて異なる水準を設定することも可能です。その場合は、各アウトカムで使用する信頼水準を明確に規定しておかなければなりません。

<記載例>

すべての信頼区間は95%で、両側である。

3.2 プロトコルの遵守と逸脱 [Adherence and Protocol Deviations]

Item 19a: 介入アドヒアランス

介入へのアドヒアランスの定義と評価方法 (曝露量・遵守率などを含む) を明確に記載する。

著者は、介入へのアドヒアランス (遵守状況) の定義を事前に明確に示しておく必要があります。非アドヒアランス (非遵守) には、介入を予定どおりに完了しなかった場合 (例: 指示された摂取量をすべて摂取しなかった、摂取量が規定より少なかった、摂取日を遵守しなかった等) が含まれます。

アドヒアランスに関する情報は、結果の一般化可能性を判断するうえで重要であり、必要に応じて解析集団 (例: FAS、PPS) との関連付けも可能です。そのため、アドヒアランスの定義と評価方法を明確に記載しておくことが求められます。

<記載例>

コンプライアンス (遵守率) は、予定された摂取量を実際に摂取した被験者の割合に基づいて評価する。遵守率は、以下の式で定義する。

遵守率 (%) = (実際に摂取したカプセル数/予定摂取カプセル数)× 100%

予定摂取カプセル数は、摂取期間 (摂取開始日から終了日までの総日数) に、1日あたりの規定摂取カプセル数を乗じて算出する。本試験では、1日あたり 2カプセル (朝1カプセル、夕方1カプセル) を摂取する計画であるため、

予定摂取カプセル数 = 摂取日数 × 2

として計算する。

Item 19b: 介入アドヒアランスの提示方法

介入へのアドヒアランスがどのように示されるかの説明する。

介入へのアドヒアランスの定義に加えて、その評価指標および結果の示し方を事前に明確に記載することが重要です。これにより、データの盲検化解除後にアドヒアランスを後づけで定義することによって生じるバイアスを防ぐことができます。

<記載例>

規定された摂取量の 75%以上を摂取した参加者の人数および割合を、i) 摂取開始から4週目の来院まで、ii) 4週目から8週目の来院まで、について集計し、試験群別に表として示す。

<記載例>

摂取遵守率に関する記述統計量 (N、平均、標準偏差、中央値、最小値、最大値) を、ランダム化された群別に整理して提示する。

Item 19c: プロトコル逸脱の定義

プロトコル逸脱の定義を明記する。

プロトコル逸脱 (Protocol deviation) とは、誤った介入の実施、誤ったデータの収集・記録、組み入れ/除外基準の誤適用、予定されたフォローアップの未実施など、プロトコルが遵守されなかった事象を指します。

プロトコル逸脱は、重大 (major)軽微 (minor) に分類する必要があります。逸脱が有効性評価、安全性、被験者の心身の健康、または試験の科学的妥当性に影響し得る場合、それは重大な逸脱と判断されます。

プロトコル逸脱の定義および分類は、バイアスを避けるため、データの盲検化を解除する前に明確に定義し、解析集団への組み入れ可否を適切に判断できるようにしておく必要があります

プロトコル逸脱の詳細な定義・分類基準・管理方法は、別文書 (例: Protocol Deviation Management Plan) に規定し、SAPではその文書を参照する形とすることもできます

<記載例>

  • 主要評価期間 (摂取開始後11~12週目) におけるレスキュー薬の使用状況 (例: 下痢止め薬の服用)
  • 主要評価期間 (摂取開始後11~12週目) における抗菌薬の使用状況

Item 19d: プロトコル逸脱の要約方法

どのプロトコル逸脱を集計・要約するかについて明確に記述する必要がある。この際、各逸脱が重大 (major) か軽微 (minor) かの分類、解析集団 (FAS、PPS、安全性集団など) への影響、ならびに逸脱の要約方法 (例: 治療群別の逸脱件数、逸脱の種類分類、該当被験者数など) を含めて記述することが望ましい。

プロトコル逸脱をどのように要約するかについて、あらかじめ明確に記述する必要があります。全体的な結論への影響を評価するため、あるいは解析集団 (例: FAS・PPS) との整合性を確保するために、重大な逸脱を示した被験者を除外した感度解析を実施する場合には、各逸脱が重大か軽微かを明確に分類して記載することが有用です。

また、プロトコル逸脱の要約方法についても、介入群ごとの逸脱件数・逸脱の種類別分類、または全逸脱の一覧表を作成するなど、集計方法を事前に明確化する必要があります。

<記載例>

プロトコル逸脱は、データの盲検化を解除する前に分類する。重大な逸脱および軽微な逸脱が発生した被験者数 (および割合) は、逸脱の種類の詳細とともに、摂取群およびプラセボ群ごとに要約する。割合の算出に用いる分母は、ITT解析集団に含まれる被験者数とする。なお、プロトコル逸脱の群間差について、正式な統計学的検定は実施しない。

解析対象集団 [Analysis populations]

Item 20: 解析対象集団の定義

解析集団の定義 (例: intention-to-treat (ITT)、per-protocol、complete case、安全性など) を明記する。

分析集団は、事前に明確に定義しておく必要がある。これには、各分析集団をどのような基準で構成するのか、どのアウトカムをどの集団で解析するのかといった点を含めて記載しましょう。

標準的な用語であっても、意味が異なる場合があるため、用語の曖昧さを避けるために、各集団の定義を文書内で明確に示すことが重要です。

たとえば ITT (Intention-to-Treat) 集団 は文献や研究者によって解釈が異なることがあり、そのままでは統一的に理解されません。そのため、「ITTとは何を満たす被験者を指すのか」を具体的に定義し、試験内で一貫して扱う必要があります。

<記載例>

Intention-to-Treat (ITT) 集団

ITT集団には、適格性に関わらず、無作為に割り付けられたすべての被験者を含める。本試験では、割付後に摂取を開始しなかった場合や、プロトコル逸脱があった場合でも、原則としてITT集団に含める。

Per-Protocol (PPまたはPPS) 集団

PP集団は、主要なプロトコル逸脱が一定割合 (例: 全被験者の5%以上) 認められる場合に、感度分析の一環として設定する。PP解析集団は以下の基準を満たす被験者で構成する:

  • ランダム化された被験者であること
  • ベースラインおよび少なくとも1回のベースライン後の主要アウトカム評価があること
  • 所定の摂取期間 (例: 12週間のうち規定量の○%以上を摂取) を満たすこと
  • 主要なプロトコル逸脱 (例: 禁止薬使用、対象外症状の発症、大幅な摂取不遵守) を有さないこと

安全性解析集団

安全性解析集団には、ランダム化され、試験食品を少なくとも1回摂取したすべての被験者を含める。被験者は、実際に摂取した食品に基づいて解析する (As-treated 原則)。

まとめ

本稿は、JAMAに掲載されたGamble C, et al (2017) のガイドラインをもとに、統計解析計画書 (Statistical Analysis Plan; SAP) のSection 4: 統計的原理 (Statistical Principals) の作成方法を整理しました。

Section 4は、信頼区間や有意水準、多重性、アドヒアランス、プロトコル逸脱、解析対象集団など、ヒト臨床試験 (ヒト試験) の統計解析において事前に規定すべき事項は多岐にわたります。しかし、それらはいずれも「後付けの判断によるバイアスを避け、透明性の高い試験運用を実現するため」に不可欠です。

とくに、機能性表示食品のヒト臨床試験 (ヒト試験) では、医薬品ほど厳格な規制が課されていない一方で、科学的妥当性と再現可能性を担保するための標準化が求められます。SAPにおいて各項目を明確に文書化し、事前に定義したルールに基づいて解析を行うことは、結果の信頼性を高めるとともに、消費者庁への届出資料としての品質向上にもつながります。

本チェックリストを活用することで、

  • 有意水準や多重性の扱いに一貫性を持たせる
  • アドヒアランスやプロトコル逸脱の基準を明確化する
  • 解析対象集団を透明性のある基準で定義する

といった、SAPに求められる要件を過不足なく盛り込むことができます。今後の章では、本コラムで示した原則を実際のSAPへどのように落とし込むか、さらに具体的な書き方や文例を紹介します。実務者が「すぐに使えるSAP」を作成できるよう、より実践的な視点から解説していきたいと思います。

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参考文献

  • Gamble C, Krishan A, Stocken D, Lewis S, Juszczak E, Doré C, Williamson PR, Altman DG, Montgomery A, Lim P, Berlin J, Senn S, Day S, Barbachano Y, Loder E. Guidelines for the Content of Statistical Analysis Plans in Clinical Trials. JAMA. 2017 Dec 19;318(23):2337-2343. doi: 10.1001/jama.2017.18556. PMID: 29260229.
  • Committee for Proprietary Medicinal Products. Points to consider on multiplicity issues in clinical trials. London, September 19, 2002: CPMP/EWP/908/99.
  • Hollis S, Campbell F. What is meant by intention to treat analysis? Survey of published randomised controlled trials. BMJ. 1999 Sep 11;319(7211):670-4. doi: 10.1136/bmj.319.7211.670. PMID: 10480822; PMCID: PMC28218.

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