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JAMAガイドラインに沿って作る統計解析計画書 (Section 2)

アウトライン
  1. 作成日: 2025/11/28
  2. 更新日: –

はじめに

統計解析計画書 (Statistical Analysis Plan; SAP) は、ヒト臨床試験 (ヒト試験) のプロトコルに記載された解析方針を、より技術的かつ詳細に記述した文書です。

本稿は、JAMAにてGamble C, et al (2017) が示したガイドラインに沿ってSAPを作成する方法をまとめます。

SAPの基本的な概要は以下のコラムにまとめているので、興味がある方は、画像をクリックして読んでいただけると幸いです。

SAPのチェックリスト

Section 2のチェックリストは以下の通りです:

表1. 「Section 2: はじめに [Introduction]」のチェックリスト

Section/Item Index Description
背景と理論的根拠 7 研究課題の簡単な説明と試験実施の簡単な正当性を含む、試験の背景と理論的根拠の概要試験を実施する簡単な理由
目的 8 具体的な目的や仮説の記述

Gamble C, et al (2017) から引用、改変

次の章から、このチェックリストに沿って、どのようにSAPを書いていくか紹介します。

SAPを作成する

3.1 背景と根拠 (任意) [Background and rationale (optional)]

Item 7: 背景と根拠

研究課題の要点と、当該試験を実施する目的・必要性を含め、試験の背景および根拠を簡潔に記述する。

ヒト臨床試験 (ヒト試験) を実施する完全な背景と根拠は、プロトコルで詳細に説明されているので、情報の重複を避けるために、SAPでは簡単な概要のみが必要です。

概要には、試験を実施する正当な理由、試験が必要な理由、研究課題の説明を含めるべきです。この項目は、SAPが外部 (例えば学術誌やウェブサイト) に公開される場合は必須とみなされますが、SAPが内部文書のみの場合は任意で問題ありません。

<記載例>

簡単に述べると、日本では○○ (対象症状・機能) は日常生活において高い有訴率を示し、生活の質 (QOL) 低下の一因となっている。特に、一般成人のXX%が△△に悩んでいるとの報告もある。既存の対策として、生活習慣改善や一般食品・サプリメント、機能性表示食品、特定保健用食品の利用が行われているものの、科学的根拠が十分に検証された製品は限られている。

本試験で評価する●● (機能性関与成分名) は、動物試験・基礎研究・探索的臨床研究において、□□ (作用機序の例: 腸内環境改善、血糖上昇抑制、疲労感軽減など) に関与する可能性が示唆されている。しかし、健常成人を対象としたランダム化比較試験のエビデンスは十分でない。したがって、本成分の摂取が□□に対して有効性を示すかどうかを検証するため、プラセボ対照ランダム化試験を実施する必要がある。

3.2 目的 [Objectives]

Item 8: 目的

具体的な目的または仮説の説明を記載する。

ヒト臨床試験 (ヒト試験) の目的は、試験が解明すべき科学的問いを規定し、その根拠および適用範囲を明確にするものです。目的に関する主要な情報はプロトコルに詳述されていることが多く、その場合はSAPでは引用に留めても問題ありません。

ただし、プロトコルは臨床的視点に重点が置かれる傾向があるため、統計学的に必要な情報 (仮説、検定方針など) が不足している場合には、SAPにおいて補完的に記載することが望ましいです。

試験仮説は、優越性・非劣等性等の試験の枠組み、ならびに検定の方向性 (片側検定または両側検定) を明確にする目的で記述されるべきです。

<記載例>

研究仮説

帰無仮説 (H0): 本試験において、●● (機能性関与成分) を含む食品の摂取群とプラセボ摂取群の間で、主要アウトカム (例: 排便回数、iAUCなど) に差はない。

対立仮説 (H1): ●●を含む食品の摂取群は、プラセボ摂取群と比較して主要アウトカムに有意な改善を示す。

試験の目的

本試験の主要な目的は、●● (機能性関与成分) を含む食品の摂取が、□□ (主要アウトカム) に与える影響を、プラセボ対照ランダム化比較試験により検証することである。

本試験の副次的な目的は以下の通りである:

  • a. 主要アウトカムに関連する副次的評価項目 (VAS、日誌、探索的バイオマーカーなど) の変化量を比較し、本食品の作用の範囲とメカニズムを検討すること。
  • b. 本食品の安全性を、問診票・バイタルサイン・血液検査等により評価すること。
  • c. 対象者属性 (性別、年齢層、ベースライン状態) によるサブグループ解析を行い、本食品の効果が特定集団において異なるかどうかを探索的に検討すること。
  • d. 服薬・摂取順守 (Compliance) がアウトカムに与える影響を評価すること。

まとめ

本稿は、JAMAに掲載されたGamble C, et al (2017) のガイドラインをもとに、統計解析計画書 (Statistical Analysis Plan; SAP) のSection 2: はじめに (Introduction) の作成方法を整理しました。

Section 2で記載するべき内容は大きく「背景・理論的根拠」「試験目的・仮説」の2点に集約されます。

Section 2は一見すると短い章ですが、「試験の背景 (なぜ)」と「試験の目的・仮説 (何を、どう検証するか)」を明確にすることで、SAP全体の論理的基盤を形成する重要なセクションです。

次章では、これらの目的をどのような統計解析方法で達成するのか、実際の解析戦略に踏み込んで解説していきます。

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参考文献

  • Gamble C, Krishan A, Stocken D, Lewis S, Juszczak E, Doré C, Williamson PR, Altman DG, Montgomery A, Lim P, Berlin J, Senn S, Day S, Barbachano Y, Loder E. Guidelines for the Content of Statistical Analysis Plans in Clinical Trials. JAMA. 2017 Dec 19;318(23):2337-2343. doi: 10.1001/jama.2017.18556. PMID: 29260229.

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