JAMAガイドラインに沿って作る統計解析計画書 (Section 1)
- アウトライン
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- 作成日: 2025/11/27
- 更新日: –
はじめに
統計解析計画書 (Statistical Analysis Plan; SAP) は、ヒト臨床試験 (ヒト試験) のプロトコルに記載された解析方針を、より技術的かつ詳細に記述した文書です。
本稿は、JAMAにてGamble C, et al (2017) が示したガイドラインに沿ってSAPを作成する方法をまとめます。
SAPの基本的な概要は以下のコラムにまとめているので、興味がある方は、画像をクリックして読んでいただけると幸いです。
SAPのチェックリスト
Section 1のチェックリストは以下の通りです:
表1. 「Section 1: 管理情報 [Administrative information]」のチェックリスト
| Section/Item | Index | Description |
|---|---|---|
| タイトルと試験登録 | 1a | プロトコルに合致した記述的なタイトルで、「Statistical analysis plan」が前段または副段にあり、試験の頭文字がある (該当する場合)。 |
| 1b | 試験登録番号 | |
| SAPバージョン | 2 | 日付付きのSAPバージョン番 |
| プロトコルバージョン | 3 | 使用しているプロトコルのバージョンへの参照 |
| SAPの改訂 | 4a | SAPの改訂履歴 |
| 4b | 各SAP改訂の正当性 | |
| 4c | 中間解析などに関連したSAP改訂のタイミング | |
| 役割と責任 | 5 | SAPコントリビューターの名前、所属、役割 |
| 署名 | 6a | SAPを書く人の署名 |
| 6b | 責任ある上級統計家の署名 | |
| 6c | 治験責任医師/臨床責任者の署名 |
Gamble C, et al (2017) から引用、改変
次の章から、このチェックリストに沿って、どのようにSAPを書いていくか紹介します。
SAPを作成する
3.1 タイトルとトライアル登録 [Title and Trial registration]
Item 1a: タイトル
プロトコルと整合した説明的なタイトルとし、前段または副題に「統計解析計画書 (Statistical Analysis Plan)」を明記し、必要に応じて試験の略称も記載する。
タイトルは、ヒト臨床試験 (ヒト試験) の識別に必要な重要な情報を提供します。とくにSAPがどの試験に関するものかを明確に示すべきです。
そのため、統計解析計画書 (Statistical analysis plan) をプロトコルのタイトルの前段または副題として試験計画と同一にすべきです。
理想は、タイトルは試験デザイン、集団、介入、該当する場合は試験の頭文字を特定すべきです。
<記載例>
「被験食品の摂取が健常者の血中酸化脂質に及ぼす影響: ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験」のための統計解析計画書
Item 1b: 試験登録番号
試験登録番号を記載する。
臨床試験登録番号は、ヒト臨床試験 (ヒト試験) を一意に識別するものであり、一般にアクセス可能なデータベースに存在することを示すものでなければなりません。
国際医学雑誌編集者委員会 (International Committee of Medical Journal Editors; ICMJE) は、出版を検討する条件として、最初の患者を募集する前に、世界保健機関 (WHO) の国際臨床試験登録プラットフォーム (International Clinical Trials Registry Platform; ICTRP) またはClinicalTrials.govに臨床試験を登録することを義務付けています。
この試験登録番号は、プロトコルやSAPを含む全ての関連文書に明記する必要があります。
特定保健用食品機能性表示食品のヒト臨床試験 (ヒト試験) の場合は、UMIN Clinical Trials Registry (UMIN-CTR) やJapan Registry of Clinical Trials (jRCT) もデータベースの候補となります。
<記載例>
試験登録番号: UMIN000054215
3.2 SAPバージョン [SAP Version]
Item 2: SAPのバージョン番号と日付
SAPのバージョン番号と日付を記載する。
SAPの各バージョンに順次番号を付け、日付を記入することで、どの文書が最新であるかの混乱を避けることができます。
バージョン番号と修正の透明な追跡は、ヒト臨床試験 (ヒト試験) の実施、レビュー、監査を容易にすることができます。
文書の最初の最終バージョンはバージョン1.0にします。それ以降の最終文書は、バージョン番号に「1.0」を増やすことが推奨されます (1.0、2.0など)。
文書が検証中である間は、それ以降のドラフトバージョンは「0.1」を増やします。例えば、1.1、1.2、1.3のような記載です。
改訂された文書が最終版とみなされると、バージョンは改訂されたバージョンより「1.0」増加します。例えば、ドラフト版であるバージョン1.3は、内容が固定され次第バージョン2.0とします。
<記載例>
SAP Version: 1.0 (2025年12月1日)
3.3 プロトコルバージョン [Protocol Version]
Item 3: プロトコルのバージョンへの言及
SAPの作成に使用したプロトコルのバージョンを記載する。
SAPの作成に使用されているプロトコルのバージョンを参照することは、SAPとプロトコルを結びつけ、SAPが独立した文書ではなく、対応するプロトコルのバージョンと合わせて読む必要があることを連想させる役割をもつため有用です。
これにより、著者がプロトコルの情報をSAPに重複して記載する必要がなくなります。
SAPが作成された後にプロトコルが改訂された場合は、SAPを改訂内容に照らし合わせて見直し、必要な場合は更新する必要があります。
Item 4a/4b/4cの記載例のように、プロトコルの修正に照らしてSAPを見直したが、変更の必要はなかったことを記録するために拡張することもできます。
<記載例>
本書は、2025年12月1日付のプロトコル第2版に含まれる情報に基づいて書かれている。
3.4 SAPの改訂 [SAP Revisions]
Item 4a/4b/4c: 改定履歴、その理由と時期
SAPの改定履歴とその理由や正当性、時期を記載する。
SAPの各バージョン間で行われた変更について、改訂の正当性と日付とともに明確な説明が不可欠です。これは透明性を維持するために重要なことです。
SAPの最初のバージョンが合意され、署名された後、SAP改訂履歴には以下の情報を含めるべきである:
- 以前のバージョン番号
- 変更されたSAPセクション
- 改訂の正当な理由とともに行われた変更の詳細
- 改訂の日付
各SAP改訂の正当な理由は、変更の理由を文書化するために必要であす。これにより、盲検化されていない試験データに基づいて変更が行われていないことが証明され、ヒト臨床試験 (ヒト試験) の外部妥当性が保証されます。
規制当局の観点からは、非盲検の中間解析が実施された後にSAPの改訂が行われる場合、SAPの決定、作成、承認に携わる者は、非盲検データについて知らないことが理想です。
その他の状況においては、変更の理由が比較データに基づくものでなく、承認者が非盲検データを知らないことを文書化することで十分です。
<記載例>
| プロトコル Ver. | SAP Ver. | 変更したセクション | 変更内容と変更理由の説明 | 改訂日 |
|---|---|---|---|---|
| 1.0 | 1.0 | – | 新規作成 | 2025/11/7 |
| 1.0 | 2.0 | Appendix A | Multiple Imputation の手順を追加した。 | 2025/11/20 |
| 2.0 | 2.0 | 変更は不要であった。 | SAPはプロトコル修正案に対して審査された。 | 2025/12/1 |
3.5 役割と責任 [Roles and Responsibility]
Item 5: SAPの貢献者の氏名、所属、役割
SAPの貢献者の氏名、所属、役割を記載する。
SAP の開発に大きく貢献している個人は、その貢献について説明されるべきです。SAPの貢献者、その所属、SAP開発プロセスにおける役割を記載することで、正当な評価、説明責任、透明性を提供することにつながります。
著者の名前と著者の貢献に関する記述は、Trialsなどのジャーナルに掲載されたSAPでは標準的ですが、未発表のSAPでは稀です。
SAPを作成する統計解析担当者、監督する上級統計解析担当者 (統計解析責任者)、治験 (試験) 責任医師のみがSAPに署名し承認する場合は、貢献者は署名しないメンバーであってもよいとされています。
3.6 署名 [signatures]
Item 6a: SAP作成者の署名
SAP作成者の署名を示す。
SAP作成者の署名は、誰がSAPの責任者であり、SAPを承認したことを示すため、極めて重要です。どのような状況においても、署名と日付が必要です。更新が行われた場合は、更新版の作成者が署名すべきです。
Item 6b: 上級統計解析担当者 (統計解析責任者) の署名
上級統計解析担当者 (統計解析責任者) の署名を示す。
試験の監督に責任を有する上級統計解析担当者 (統計解析責任者) の署名は、SAPが経験豊富な統計家によって検討され、承認されたことを強調するものとして重要です。
状況によっては、上級統計解析担当者 (統計解析責任者) SAPを作成する場合もあり、そのような二重の役割は署名に反映されるべきです。また、署名は常に日付入りである必要があります。
Item 6c: 治験 (試験) 責任医師の署名
治験 (試験) 責任医師の署名を示す。
治験 (試験) 責任医師の署名は、彼らがSAPを検討し承認したことを示します。最終版が承認され、署名されれば、署名者全員の正当な理由と承認なしにその場しのぎの変更が行われることを避け、内外へヒト臨床試験 (ヒト試験) の妥当性を維持できます。また、署名は常に日付入りである必要があります。
まとめ
本稿は、JAMAに掲載されたGamble C, et al (2017) のガイドラインをもとに、統計解析計画書 (Statistical Analysis Plan; SAP) のSection 1: 管理情報 (Administrative information) の作成方法を整理しました。
SAPは単なる解析手順書ではなく、透明性 (transparency)、再現性 (reproducibility)、説明責任 (accountability) を担保するための重要文書です。とくにSection 1は、SAP全体の信頼性を支える「基礎情報」の役割を持ちます。
Section 1は形式情報に見えますが、この部分の精度が、解析の透明性や規制当局・第三者からの信頼性を決定づけます。
次章以降では、実際の統計解析方法や集計手順に進んでいきますが、その前段として、本稿で示した内容を確実に整備しておくことが、適切なSAPの出発点となります。
参考文献
- Gamble C, Krishan A, Stocken D, Lewis S, Juszczak E, Doré C, Williamson PR, Altman DG, Montgomery A, Lim P, Berlin J, Senn S, Day S, Barbachano Y, Loder E. Guidelines for the Content of Statistical Analysis Plans in Clinical Trials. JAMA. 2017 Dec 19;318(23):2337-2343. doi: 10.1001/jama.2017.18556. PMID: 29260229.
- De Angelis C, Drazen JM, Frizelle FA, Haug C, Hoey J, Horton R, Kotzin S, Laine C, Marusic A, Overbeke AJ, Schroeder TV, Sox HC, Van Der Weyden MB; International Committee of Medical Journal Editors. Clinical trial registration: a statement from the International Committee of Medical Journal Editors. N Engl J Med. 2004 Sep 16;351(12):1250-1. doi: 10.1056/NEJMe048225. Epub 2004 Sep 8. PMID: 15356289.



