統計解析担当者として被験者募集に関われること
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- 作成日: 2026/2/6
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はじめに
被験者募集は、リクルート会社や実施機関の業務であり、統計解析担当者は「解析計画書を書いて、データが揃ったら解析する人」と捉えられがちです。
しかし実務では、募集段階の意思決定がそのままデータのばらつき・欠測・偏りを生み、解析の信頼性を左右します。
統計解析担当者は、被験者募集を運用として回す立場ではなくても、試験の科学性を守る立場として関われる領域が確実にあります。しかもその多くは、倫理的にも正当で、現場に歓迎されやすい関与です。
それは、推定したい効果を、推定可能な形でデータとして回収することです。
営業・進捗・コストの都合で募集が揺れるのは現実としても、科学的に解釈不能な試験にしてしまうと、最終的に誰も得しません。
統計担当者は「集め方」を変えたいのではなく、結果が説明できるように募集設計を整えるのが役割です。
組み入れ基準を「ばらつき」と「解釈」で調整する
組み入れ基準の議論は、募集担当者側から見ると「厳しくすると集まらない」。一方、統計解析担当者側から見ると「緩くするとSDが増えて検出力が落ちる」。この綱引きを、感情ではなく数字で整理できるのが統計の強みです。
統計が出せる具体的アウトプット
- SDが増えた場合の検出力低下(感度表)
例:SD 20/25/30 で必要Nがどう増えるか - 基準変更が結果解釈に与える影響の言語化
例:「軽症が増えると天井効果が出やすい」「重症が増えると欠測が増える」
“募集しやすさ”と“解析しやすさ”の落とし所を、統計は「説明可能な形」で提案できます。
層別・割付の設計で「偶然の偏り」を減らす
募集が難航すると、実務では「入ってきた人から入れる」になりやすく、群間で背景が偏ります。統計はここに対して、現場の負担を増やしすぎない範囲で次のような提案ができます。
- 層別因子の選定 (多すぎると運用破綻するので意味のあるものだけ)
- ブロックサイズや割付比の現実的設計
- 追加サイト・追加募集のときの「偏りが起きにくい運用」
これは解析のテクニックではなく、そもそも比較可能なデータにする技術です。
募集計画に「欠測」を織り込む
欠測は解析で何とかするもの、と思われがちですが、欠測が群で偏れば解析の仮定 (MARなど) が危うくなります。
統計担当者は、欠測を減らす施策そのものを実行しなくても、
- 欠測が結果に与える影響 (バイアスと精度)
- どの欠測が致命的か (主要評価時点の欠測、測定不能、治療中断など)
- 欠測が増えやすい設計上の地雷( 負担が重い、来院回数、評価タイミングなど)
を整理して、募集・運用側に「何を守ればいいか」を渡せます。
募集資材の“表現”を、科学的リスクの観点でチェックする
募集広告や説明文が、期待値を上げすぎると (例: 「必ず良くなる」のようなニュアンス)、プラセボ効果・報告バイアス・継続率の偏りを生みます。特にQOLやVASのような主観指標で顕著です。
統計担当者は、「倫理の文章校正」ではなく、アウトカムの測定バイアスを減らす観点で、表現のリスクを指摘できます。
進捗会議で見るべきKPIを設計する
募集会議でよくあるのが、「人数は順調です」で終わることです。しかし、人数よりも先に見るべき指標があります。
- 主要評価の測定完了率 (来院率ではなく測定完了)
- 遵守率 (摂取率・介入実施率)
- ベースライン分布 (重症度の偏り、天井/床効果)
- 施設間差 (測定環境の違いがSDに効く)
統計担当者がKPIを決めておくと、「集まっているけど失敗する試験」を早期に察知できます。
SAPに「募集の揺れ」を吸収する設計を書く
募集は計画通りになりません。だからこそ、SAPに次の項目を明記しておく価値があります。
- 主要解析の方針 (欠測耐性のあるモデル、共変量、層別因子の扱い)
- 追加募集・サイト追加時の扱い (固定効果としてサイト、感度分析など)
- 感度分析 (欠測仮定の変更、PPSの定義、遵守率での補足解析の位置付け)
これにより、後から「都合の良い解析」に見えにくくなり、説明責任の追及に対しても強くなります。
まとめ
統計解析担当者が募集に関わるのは、現場の仕事を奪うためではありません。むしろ目的は逆で、試験を「解釈できる形」に整えて、最後に揉めないようにすることです。
- SDが増えて検出力が落ちる
- 欠測が偏って推定が歪む
- 背景が偏って「群間差なのか偶然なのか」になる
- 後から解析変更に見えて信頼性が落ちる
こうした課題を、募集段階で減らせるのが統計の価値です。